売上データを集計する昭和な方法
15分ほど同僚が隣でぶつぶつ言いながら電卓を叩いていたので、何をしているのかなと思って見ると、彼はモニターを指で押さえながら(おそらくエクセルのセルを指差していたのだと思う)数字を呟きつつ電卓を叩いていた。
中途採用の彼が入社してからおよそ5年が経った。
彼のサポート期間はとっくの昔に終了しているのだが、見ていられないので手伝った。
彼がしたいのは、客先ごとの売上データのまとめ。
まず、彼が使っているエクセルは、ERPのデータを抽出したものではなく、出力した売上伝票をエクセルに転記したものだった。
そのエクセルの数字を見ながら電卓を叩くという、非効率極まりない方法で、毎月データをまとめていたのか… だからエラーが多かったんだね。今まで気付けなくて申し訳なかった。
いつもこうやって集計してるの? 大変でしょう? と訊くと、彼は照れたように「昔の人間だもんで… 昭和なやり方しかしらないんですよ」と言った。
とにかく、伝票を転記して電卓を叩くより、関数を使ったほうが早いし正確だからと、ERPからデータを抽出する方法から伝える。
彼はきれいな字で「売上データまとめ」と几帳面に見出しをつけてノートに手順を書いていた。
新入社員教育のようだ。
横にいるのは中年男性だが、新鮮な気分が味わえる。
一通り作業を終えると、彼はまた照れくさそうに笑い「いやぁ… お忙しいのにお時間いただいてありがとうございました」と言った。
素直できもちのいい人だなぁ。
自分の仕事に戻ってしばらくすると、彼が「今日暑いので、良かったら食べてください」と買ってきてくれたのがファミマのフラッペだった。
◻︎レモネードフラッペ(期間限定)
レモンの輪切りが入っていて、甘酸っぱくて美味しかった。
揉むのが足りなかったのか、底にたまったシャーベット状の氷が固まって吸いにくくて、適当にかき混ぜたためか、底のほうの甘みが強すぎたけど、普段自分で買わない冷たいおやつをもらって嬉しかった。
おやつが、というか彼の気持ちが嬉しかった。
こんなことしなくてもいいのに、でもありがとう! とお礼を言うと、彼は「いやいや、わたしも飲んでみたかったもんで… 」と、自分の分を揉みしだきながら笑っていた。
おいおい、揉みすぎてストローからフラッペが溢れ出てるぞ。
彼は仕事ができるとか頭が切れるというタイプではないけど、一緒に仕事をする仲間として、わたしは好きだなぁと思った。
わたしも彼のようにいつでもフラットな優しさで人に接したい。
それはかなり難しい。効率的なデータ集計なんかよりずっと。