「あやちゃんのうまれたひ」
母親が娘に、「あなたが生まれてくることを、家族みんなが楽しみにしていたよ。あなたが生まれてくれて、みんなとても嬉しいよ」ということを伝えるお話。
あやちゃんは昭和生まれだろうか。おうちにダイヤル式電話機がある。
この絵本を読むと、娘が必ず「ねぇ、わたしが生まれるときも、ままにはわたしの声が聞こえた?」とか訊いてくる。
うーん、おなかの中からは娘ちゃんの声は聞こえなかった。
「じゃあ、どんなだった?」
どんなだったかなぁ。
さむいさむい朝だった。
ママは、なんだかおなかが痛くなって、目が覚めたの。
ちょうどその日は最後の妊婦健診の日だったから、朝ごはんを食べて病院に行ったわ。
「妊婦健診って?」
ママと、おなかの中のあかちゃんが元気かどうか、お医者さんに診てもらうこと。
病院に着くころには、歩けないくらいにおなかが痛くなっていたわ。
看護師さんが、「きょうは他に(分娩予定の妊婦が)いないから、もう分娩室入っちゃいましょう」って言うから、ママはおきがえして、分娩室のベッドに横になって、もしかしたら帝王切開かもしれないって言われてたから、色々検査して、点滴も入れられたの。
「パパは?」
パパは、ママと一緒に分娩室にいて、ママとおしゃべりしていたわ。
ママはおなかが痛くなると、声を出さずにベッドの柵を握りしめていたから、パパは心配そうだった。
パパは何もすることがないから、帰っても良かったし、空いてるベッドで寝てても良かったのに、ずっと横にいてくれたの。やさしいね。
ママは、おなかが痛くなったり、痛くなくなったりするのをくりかえしていたわ。
そうしているうちに、お手洗いに行きたいなって思ったの。
「ちっち? うんちっち?」
うんちっちが出るかも、って思ったの。
看護師さんがお手洗いまで付き添ってくれた。
ろうかにはおばーばとおじーじもいて、ままがおなかが痛くて前かがみになって歩くのを見て、おばあさんみたいだなぁって笑っていたわ。
ほんとうにそうなの。腰の曲がったおばあさんみたいだったのよ。
ママ、じぶんでも笑っちゃった。きっと40年後にはそうなっているわね。
結局、うんちっちは出なかった。
そう看護師さんに言ったら、もしかしたら、あかちゃんが出てくるんじゃない? って言われたの。
ベッドに戻ったらお医者さんが診てくれて、もうあかちゃん出てきますよって言われて、ママはびっくりした。
「どうやってあかちゃんうんだの?」
おなかがぎゅーんと痛くなったら、かたいうんちっちを出すときみたいに、思い切りおなかにちからを入れて出すのよ。
それを「いきむ」って言うんだけど、ママ、いきむの上手だねってほめられたわ。
いきんだら、あかちゃんのあたまが出てきてね、もういきまなくていいですよってお医者さんが言ったの。
「うまれたあと、わたし、お風呂にいれてもらえた?」
お風呂には入ってないんじゃないかしら。
タオルでからだをふいてもらって、ママの横のあかちゃん用のベッドに寝かされていたわ。
パパはあかちゃんがうまれてうれしくて、ありがとうって言って泣いてた。
「ママも泣いたの?」
ママは泣かなかった。
やっとおわった! って思って、うれしくてほっとしたら、何か飲みたくなって、パパにおみずを買ってきてもらった。それから病院のお昼ごはんを食べたの。ご飯ばっかり多くて、もっとおかずの種類が多ければいいのにって思ったわ。
パパは、おばーばとおじーじにもおしえなきゃと思ってさがしたけど、ふたりは見つからなかったの。
おばーばとおじーじは、まだまだうまれないと思って、ラーメン屋さんで大好きな塩ラーメンをすすってたのよ。
パパがでんわしたら、あわてて病院にもどってきて、あかちゃんを見てほんとうに嬉しそうだったわ。
「ふぅーん、まま、わたしもラーメン食べたい。作ってね」
じゃあ、お休みの日のお昼はラーメンね。簡単でいいね。
おしまい