なる楽生活

なるべく楽に、なるべく楽しく。日々の暮らしの雑記。

クワガタの婿入り

娘にスニーカーを出そうと、玄関のシューズクローゼットを見たら、黒い楕円が目に飛び込んできた。

ゴキブリか?

異常な緊張に襲われる。

奴を刺激しないように、硬直したまま凝視すると虫違いだった。ほぼ全ての日本人に嫌悪感を抱かせるであろう、奴特有のオーラを発していない。そして、ハサミのようなものもある。もしかして、クワガタ? そう思うとやっと普通に呼吸かできるようになった。

 

どこから入って来たのだろう。もし、この家にクワガタが簡単に侵入できるなら、考えたくはないが、ゴキブリだって簡単に侵入できるだろう。我が家はそんなに隙間だらけなのか。ゴキブリはエアコンの室外機のホースからも侵入してきます、と謳う先日チラシが入っていたが、クワガタ達もそうなのか。ぞわぞわする。

 

ここでぐるぐる考えていても仕方がない。まずは娘を保育園に連れていかなければ。

玄関に虫がいるから来てごらんと娘を呼ぶと「ヒィッ」と息を飲んで逃げたので、クワガタがいるよと言い直す。恐る恐るやって来た娘は、クワガタを見ると「あ! この子くん(なぜか名前をつけていないものを雄雌問わずこの子くん、と呼ぶ)保育園に連れて行きたい。ねぇ〜いいでしょう?」と甘えた声を出した。そしてクワガタの名前はチョコくんに決まった(茶色いから)。

 

娘の通う保育園には、年長の男の子Tくんを主任研究員とする虫研究会が発足したと聞いている。今はカブトムシの幼虫の世話をしているらしい。ただでさえ忙しい保育士さんの手を煩わせてしまうのでは、とか、自然の中で生きるクワガタ本来の生きる喜びを奪って良いのか、と少し葛藤したが、結局普段顔を合わせている園児たちが喜ぶかもしれないという期待が勝り、保育士さんの了承を得て、園にチョコくんを連れて行くことにした。

 

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保育園へ引っ越すチョコくん

 

チョコくんを入れたヨーグルトの空容器をポリ袋に入れて持っていく。虫が苦手なくせに、娘はどこか誇らしげだ。きっと、みんなが興奮するだろうと分かっているのだろう。「Tくんにクワガタくんのおうちを作ってもらうんだ。いいぜいいぜって言うかもね? 保育園にね、カブトムシ用のjelly(←いい発音)があるけど、カブトムシとクワガタは似てるから、チョコくんも好きかな?」など、娘も興奮して喋り続けている。

 

園に入ると、保育士さんから話を聞き、すでに期待と興奮で目を輝かせたTくんたちが待ち構えていた。

「(娘)ちゃん、クワガタ、見てもいい…?」

本当は娘の手からポリ袋を奪いたいくらいだろうに、気持ちを抑えたTくんはそっとそれを受け取り、中を覗き込んで「かっけぇ…」と漏らした。Tくんを囲む虫研究員たちも大興奮だ。(娘)ちゃんが捕まえたの? どこにいたの? こいつ(一匹)だけ? と質問責めに合う娘は、明らかに照れて、まんざらでもない様子だ。普段は「年長さんの男の子はたたかいごっこばっかりしてるから、きらーい」なんて言って距離を置いているくせに…!

わたしはその様子を見て、ニヤニヤが抑えられなかった。マスクが役に立った。顔半分を覆っているので、少しは気持ち悪さが薄まっていることを期待する。目は口ほどに物を言うという言葉があるので、明らかにニヤつく変な人という実態は隠しきれなかったかもしれない。でも、良いのだ。誰もわたしのことは気にしてないから。今日の主役はクワガタだ。

 

保育士さんにお手間を取らせることのお詫びと、クワガタの飼育を承諾してくれたことのお礼、今日も娘をよろしくお願いしますと伝えて、保育室を後にすると、ドアが開いてTくんが叫んだ。

 

「(娘)ちゃんのママ、ありがとね! 俺、絶対だいじにお世話するから! こいつのこと絶対幸せにするから!」

 

結婚式みたいだ。

不束なクワガタですが、どうぞよろしくお願いします。

今朝遭ったばかりのクワガタのおかげで、園児の熱く優しい気持ちに触れられた。

 

さて、これからのわたしたちの安寧のため、害虫対策も本気で考えねばなるまい。