さよなら げんきでいて 娘の被布セット
娘の七五三(三歳)のお祝いに用意してもらった被布セットを、お付き合いのあるフォトスタジオにお譲りした。
一回しか袖を通さない割に高価だからと遠慮していたのだが、おふくろちゃんがどうしても買ってあげたいの、と言い張るので、娘が気に入ったものを買ってもらったのだった。青と白の矢絣に、暖色系の花が散りばめられていて華やかな着物と、白地に赤、ピンク、黄緑の花がついた被布。
思い出の品
このかわいい被布セットは、やはり七五三の参拝でしか着ていない。クリーニングして、ずっと箱に入れてクローゼットにしまってあった。別のものを取り出そうとクローゼットのドアを開けるたびに目にする。今後、絶対に使うことがないものを2年間しまい込んでいるけど、この「思い出の品」とはどう付き合ったら良いのかなあ。と、被布セットがクリーニングから戻ってきた時からぼんやりと考えていた。
ある日、壁に掛けた娘の七五三の写真を見て和んでいて、思いついた。
この写真を撮ってくれたスタジオに、衣装として使ってもらえないか聞いてみよう、と。写真スタジオには大勢のお客さんが訪れるから、衣装が一つ増えたら選択肢も増えるし、我ながら名案かもしれない。
娘に「この娘ちゃんのお着物、もう着られなくなっちゃったから〇〇のお兄さん(スタジオのカメラマン)にあげても良い? 小さい子たちがこのかわいいお着物を見たら喜んでくれるかなって思うんだけど、どう?」と訊くと、「いいよー。わたしもうお姉さんだからこのお着物着られないもんね。おてても足もはみ出しちゃうんじゃない? ふふふ」と、普段着をおさがりに出すときと同じような反応だった。
さっそく、スタジオにLINEで尋ねる。
こんな被布セットがありますが、もし良ければ衣装としてお使いいただけませんか? ご迷惑でなければお譲りしたいです。
スタジオからご快諾いただき、梱包して発送する。改めて被布セットを見ていたら、涙が滲んできた。
こんなに小さかったのに、あっという間に大きくなっちゃうんだね。勿論いまもかわいくてたまらないけど、この頃も本当にかわいかった。自分で選んだお着物を着てご機嫌で、ショートヘアにつまみ細工の花のピンを付けたのも嬉しそうで、慣れない草履でちょこちょこ歩いていて、ご祈祷の間も静かに座っていて、スニーカーに履き替えたら飛び跳ねていた娘。千歳飴が嬉しくて、長いまま舐めて口の周りも小さな手もべたべたになっていた。
さて、被布セットはこうして旅立った。新天地で活躍してくれるといいな。すっかり気分は「グローイング アップップ」。
思い出の品を買ってくれた義母、譲ることに快く同意してくれた娘、突然の申し出にも関わらずお引き取りいただいた写真スタジオに心から感謝する。